大谷石の塀を直そうと調べると、高さは2.2m以下、控えは3.4mごと——という数字が並びます。どちらもブロック塀の数字です。大谷石は石造、つまり組積造。効く条文が違います。
この記事の要点
・大谷石の塀は石造=組積造。施行令第61条は高さ1.2m以下・長さ4m以下ごとの控壁・根入れ20cm以上
・2.2m、3.4mごと、高さの1/5、根入れ30cmはすべて第62条の8(補強コンクリートブロック造)の数字
・塀を対象にした公的な補修工法の基準は見つかりませんでした
大谷石の塀は、補修して残せますか?
塀そのものを対象にした公的な補修工法の基準は、見つかりませんでした。目地の詰め直しも含浸材も、効果や保つ年数を示した公的な資料はありません。決まっているのは、点検の項目と、危険が見つかったあとの動き方のほうです。
国土交通省は平成30年6月21日の技術的助言で既設の塀の点検を求め、「安全点検の結果、危険性が確認された場合には、付近通行者への速やかな注意表示及び補修・撤去等が必要となること」を所有者等へ注意喚起するよう特定行政庁に要請しました。補修か撤去かの分かれ目はここです。
宇都宮市の資料は、蔵や住宅の話です
産地の宇都宮市には大谷石建造物の解説集と耐震診断・補強ガイドラインがありますが、対象は蔵などの建造物で、塀の整理ではありません。解説集で「塀」が出るのは引用法令の中だけ、ガイドラインには一度も出てきません。当てはめられるのは、次に見る第61条と国の点検項目です。
大谷石は、どんな傷み方をしますか?
表面が変色するもの、浮いていて触ると簡単に剥がれて白色の粉状あるいはかさぶた状に肌落ちするもの、ある一定の深さで板状に肌落ちするもの。この3種類です。清木隆文氏が学会誌『材料』2017年11月号の解説「大谷石の紹介」で、地下採石場と住宅の塀の観察から整理しています。
原因に挙がるのは水です。雨や雪で吸水し、吸水膨張を繰り返すことで表面が次第に劣化する、これが最も影響していると考えられる、と同じ解説は書いています。板状に落ちるものは、残る厚さが減ります。
建築基準法では、大谷石の塀はどう扱われますか?
石造の塀は組積造として、建築基準法施行令第61条が定めます。第51条が適用の範囲を「れんが造、石造、コンクリートブロック造その他の組積造」と書いているためです。栃木県は点検表で「組積造(れんが造、石(大谷石)造、鉄筋が入っていない コンクリートブロック造)の塀」と、大谷石を名指ししています。
第61条は四つを定めます。高さは1.2m以下。各部分の厚さは、その部分から塀の頂部までの垂直距離の十分の一以上(高さで一律に決まらず、測る位置で変わります)。長さ4m以下ごとに、壁面からその部分の厚さの1.5倍以上突出した控壁(木造のものを除く)(ただし、その部分の厚さが前号の厚さの1.5倍以上ある場合は、この限りでない)。基礎の根入れの深さは20cm以上。鉄筋の定めは、この条文にはありません。
大谷石を張っただけの塀は、別の条文です
大谷石の塀には、石を積んだものと、別の構造の表面に石を張ったものがあります。芯が補強コンクリートブロック造で大谷石を張った塀は組積造ではなく、第62条の8の側です。点検より先に、積みか張りかを確かめてください。
ブロック塀の数値と、どこが違いますか?
高さの上限は1.2mと2.2m、控えの間隔は4mと3.4m、突出量の測り方も基礎も別です。国土交通省の点検資料も、組積造は第61条、補強コンクリートブロック造の塀は令第62条の6及び令第62条の8と書き分けています。
項目 | 組積造(大谷石)第61条 | 補強コンクリートブロック造 第62条の8 |
|---|---|---|
高さ | 1.2m以下 | 2.2m以下 |
厚さ | 頂部までの垂直距離の1/10以上 | 10cm以上(高さ2m超は15cm以上) |
控え壁 | 長さ4m以下ごと・塀の厚さの1.5倍以上突出 | 長さ3.4m以下ごと・高さの1/5以上突出(塀の高さが1.2m超の場合) |
基礎 | 根入れ20cm以上 | 丈35cm以上・根入れ30cm以上(塀の高さが1.2m超の場合) |

高さが1.2mを超えていたら、違反ですか?
直ちに違反にはなりません。建築基準法第3条第2項が、規定の適用の際に現に存する建築物には、適合しない規定を適用しないと定めています。既存不適格です。ただし「そのままでよい」ではありません。
(維持保全)第八条 建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。
栃木県の点検表も「塀の安全性の確保は、所有者の責任です。」と書きます。放置して著しく保安上危険となるおそれがあると特定行政庁が認めれば、第10条の勧告・命令が働きます(対象建築物の範囲に条文上の限定があり、住宅の塀に必ず及ぶとまでは書けません)。民法第717条第1項は、工作物の「設置又は保存に瑕疵があることによって」他人に損害が生じたときに、占有者に、占有者が必要な注意をしていたときは所有者に賠償責任を負わせます。仕様規定に合っていないことと、設置や保存に瑕疵があることは別です。
補強すれば、今のまま残せますか?
公的な資料の書きぶりが食い違っていて、決着しませんでした。栃木県「ブロック塀等の構造基準」は第61条についても、大臣が定めた構造方法による補強と構造計算で安全が確かめられればこの限りではない、と書きます。一方、国土交通省の注記はこうです。「(注)補強コンクリートブロック造の場合、構造計算により構造耐力上安全であることが特別に確かめられる場合は上記の仕様基準によらないことができる。」
第61条には、第62条の8の柱書のような、構造計算で安全を確かめれば各号によらなくてよいというただし書きがありません。第三号のただし書きは控壁を省ける場合の定めで、条文全体の適用を外すものではありません(第51条第1項のただし書は対象が「建築物の部分」で、塀に及ぶかは条文だけでは決まりません)。補強して残せるかは、所管の特定行政庁の判断になります。
自分で点検できるのは、どこまでですか?
六つの項目のうち、五つは自分の目で見られます。国土交通省のチェックポイントは、組積造の塀に次の欄を置いています。
□1.塀の高さは地盤から1.2m以下か。
□2.塀の厚さは十分か。
□3.塀の長さ4m以下ごとに、塀の厚さの1.5倍以上突出した控え壁があるか。
□4.基礎があるか。
□5.塀に傾き、ひび割れはないか。
<専門家に相談しましょう>
□6.基礎の根入れ深さは20cm以上か。
栃木県は「点検は目視確認でOKです。」「危険な箇所にある既存ブロック塀等の点検は不要です。」と案内しています。六つ目だけが専門家の欄です。
よくある質問
大谷石の塀を建て替えるとき、確認申請は要りますか?
建築物に附属する塀は、建築基準法第2条第1号の建築物に含まれます。一方、施行令第138条第1項が指定する工作物に塀はありません(高さ2m超で挙がるのは擁壁です)。要否は所管の特定行政庁の運用によるので、着工前に窓口へ。
補修や撤去に使える制度はありますか?
全国共通の制度はなく、自治体ごとに違います。宇都宮市は大谷石のまちなみ景観保全の補助で、大谷石建築物の敷地内にある大谷石塀についても「安全性が確保されたもの(高さ80センチメートル以下の場合など)」を対象としています。これは補助の対象条件で、安全の基準ではありません。
大谷石の塀は、何年もちますか?
年数を示した公的な基準はありません。定期報告(建築基準法第12条)は特定行政庁が指定する建築物等が対象で、一般住宅の塀は入りません。年数ではなく、六つの項目で見てください。
まとめ
大谷石の塀は石造=組積造で、効くのは施行令第61条です。ブロック塀の数字を当てはめると、答えを間違えます。塀を対象にした公的な補修工法の基準は見つかりませんでした。まず六つの項目で点検を。
M Art Wall は軽い意匠の塀の製造・販売元で、点検や補修は請け負っていません。作り替える段になったら、設置できるか、どんな意匠にできるかを、まずご相談ください(ご相談は無料です)。

