古いブロック塀を前に知りたいのは、補強で使い続けられるのかどうか、でしょう。補強で残せる場合はありますが、「この金具を付ければ基準を満たす」という道は法令にありません。施行令第62条の8が用意しているのは、仕様の各号で通す道と、構造計算で安全を確かめる道の二つです。
この記事の要点
・既存不適格は現行規定を「適用しない」だけで、適合したことにはなりません
・各号によらない補強は、告示に沿った構造計算で安全を確かめる道になります
・補強と建て替えの分かれ目を示した公的な基準はありません
補強すれば、古いブロック塀を残せますか?
残せる場合はあります。ただし「古いから今のままでよい」という意味ではありません。建築基準法第3条第2項は、規定の施行または適用の際に現に存する建築物がその規定に適合しない場合、当該規定は「適用しない」と定めています。適用されないだけで、適合したことにはなりません。
既存不適格は、放っておいてよいという意味ではありません
同じ法律の第10条第3項が、その状態を名指ししています。第3条第2項の規定により適用を受けないものが著しく保安上危険であると認める場合、特定行政庁は所有者等に相当の猶予期限を付けて、除却その他保安上必要な措置を命ずることができる、という条文です。現行の各号が及ばないことと、危険なまま置いてよいことは別です。建築基準法第2条第1号は、建築物に「附属する門若しくは塀」を含めています。
控え壁は、あとから足せますか?
後から足した控え壁が条文の控壁として認められるかを直接述べた公的な資料は、見つかりませんでした。分かっているのは、条文が控壁に何を求めているかのほうです。施行令第62条の8第五号は、長さ3.4m以下ごとに、径9mm以上の鉄筋を配置した控壁で、基礎の部分において壁面から高さの五分の一以上突出したものを設けること、としています。
見た目の控え壁と、条文の控壁は別です
求められているのは、径9mm以上の鉄筋、基礎の部分における突出、高さの五分の一以上の突出量の三つ。外から見て控え壁の形があることと、この三つを満たすことは別です。所管の特定行政庁と建築士に確認してください。
高さ1.2m以下の塀には、そもそも第五号が適用されません。柱書が「高さ一・二メートル以下の塀にあつては、第五号及び第七号を除く。」としているためで、基礎の丈と根入れを定めた第七号も外れます。低い塀に控え壁が無いこと自体は不適合ではありません。
金具やシートを付ければ、基準を満たせますか?
工法や製品が認定されて基準を満たす、という道は施行令にありません。第62条の8はこう始まります。
(塀)第六十二条の八 補強コンクリートブロック造の塀は、次の各号(高さ一・二メートル以下の塀にあつては、第五号及び第七号を除く。)に定めるところによらなければならない。ただし、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。
ただし書きの受け皿は「構造計算」であって、工法の認定ではありません。その基準が平成12年建設省告示第1355号で、風圧力(施行令第87条第2項に準じた速度圧に風力係数を乗じたもの)と、地震力(高さに応じた式で計算する曲げモーメントとせん断力)の両方について、構造耐力上安全であることを確かめるよう求めています。「この金具を付ければ基準クリア」が成立しないのは、そのためです。

補強と建て替えは、どこで分かれますか?
公的には、分かれ目の基準は示されていません。国土交通省の技術的助言(国住指第1130号「建築物の既設の塀の安全点検について」平成30年6月21日)は、危険性が確認された場合に「補修、撤去等が必要である旨」注意喚起せよと書くだけです。日本建築防災協会の耐震診断フローも、健全性評価と、塀の一体性および転倒の評価のいずれかがNGになった先を「撤去または耐震改修」と示すだけです。判断は耐震診断の結果を踏まえて建築士等が行います。
代わりに、材料になる事実が二つあります。一つは、同じ通知の別紙2が「補修方針を検討するため、ブロックを一部取り外して」鉄筋の定着とモルタルの充填状況、根入れ深さを確かめるとしていること。外から見ただけでは、補強できるかどうかは決まりません。もう一つは制度の側で、東京都の補助制度一覧は耐震診断・除却・建替え・耐震改修の4列に分かれ、耐震改修まで対象にする自治体は限られること。
その一覧は耐震改修を「ブロック塀等の補強工事及び切断により高さを低くする等の一部除却工事」と定義しています。高さを下げるのも、制度の上では耐震改修です。二択に見えて、低くして残す三つ目があります。

残すと決めたら、何を確かめますか?
国が示した6項目です。国土交通省「ブロック塀の点検のチェックポイント」は、外観で見る1〜5と、専門家に相談する6を分けています。
見る所 | 補強コンクリートブロック造 | 組積造(令第61条) |
|---|---|---|
高さ | 2.2m以下か | 1.2m以下か |
壁厚 | 10cm以上か(塀の高さが2m超2.2m以下の場合は15cm以上) | その部分から頂部までの垂直距離の1/10以上か |
控え壁 | 長さ3.4m以下ごとに高さの1/5以上突出(塀の高さが1.2m超の場合) | 長さ4m以下ごとに壁厚の1.5倍以上突出(木造を除く) |
基礎 | コンクリートの基礎があるか | 根入れ20cm以上か |
健全性 | 傾き、ひび割れはないか | 同じ |
鉄筋(専門家) | 径9mm以上が縦横80cm間隔以下でかぎ掛けされているか。根入れ30cm以上か(高さ1.2m超の場合) | 鉄筋の定めなし |
中央の列は点検項目で、条文は施行令第62条の8。基礎は第七号が丈35cm以上・根入れ30cm以上で、ここも高さ1.2m以下の塀には適用されません。
れんが造・石造・鉄筋の無い塀は、別の欄です
数値がまるごと違うので、塀の種類を取り違えると全部ずれます。施行令第61条は、高さ1.2m以下、長さ4m以下ごとに壁厚の1.5倍以上突出した控壁、根入れ20cm以上。その部分の壁厚が第二号の1.5倍以上あれば控壁は要らない、というただし書きが第三号に付きます。
残した後も、建築基準法第8条第1項の維持保全の努力義務は所有者、管理者または占有者にかかります。土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害が生じれば、民法第717条によりまず占有者が、占有者が必要な注意をしたときは所有者が賠償責任を負います。基準の解釈は各特定行政庁、専門家への相談は建築士関係団体等、というのが国土交通省の示す窓口です。
補助の制度はどうやって探しますか?
自治体名とブロック塀で調べて、所管課に確認するのが確実です。国は社会資本整備審議会の資料で、現行基準に適合しない塀の除却・改修を防災・安全交付金等の基幹事業として支援していますが、対象工事も要件も自治体ごとに違います。対象になる高さの要件も自治体ごとで、全国共通ではありません。
よくある質問
控え壁は40cm突出していればよいのですか?
施行令第62条の8第五号が定めるのは「壁面から高さの五分の一以上突出」で、固定の寸法ではありません。40cmという数値は施行令にありません。塀が高くなれば、必要な突出量も大きくなります。
高さ1.2m以下の塀にも控え壁は要りますか?
第62条の8の柱書が、高さ1.2m以下の塀については第五号および第七号を除くとしています。控壁と基礎の丈・根入れの規定は及びません。高さ、壁厚、鉄筋の号は残ります。
傾いていたら、すぐ撤去するしかありませんか?
耐震診断で健全性が確保できていないと判定されると「撤去または耐震改修」へ進みますが、どちらを選ぶかの公的な基準はありません。判定に使う傾きの数値は5度以上です。
まとめ
補強で残せる場合はあります。ただし施行令第62条の8が用意する道は、各号の仕様で通すか、告示第1355号に沿った構造計算で安全を確かめるかの二つだけで、工法や製品の認定はありません。分かれ目の公的な基準も無く、判断は耐震診断の結果を踏まえて建築士等が行います。
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