ブロック塀が傾いて見えるとき、知りたいのは「何度までなら大丈夫か」でしょう。けれども、塀の傾きに角度や勾配を定めた法令はありません。公的な資料が塀について書くのは、傾きの有無の判定と、耐震診断で使う一つの数値だけです。
この記事の要点
・施行令が塀に定めるのは作り方の仕様だけで、傾きの条項はありません
・公的な数値は、耐震診断基準の調査シート例の「5度以上の傾斜」だけです
・3/1000・6/1000は住宅についての数値で、塀には適用されません
塀の傾きは、何度から危険なのですか?
何度から、という線は公的な資料に引かれていません。国土交通省「ブロック塀の点検のチェックポイント」で傾きに関わるのは、第5項「塀に傾き、ひび割れはないか。」の一行だけです。
同じ1枚で、ほかの項目には数値があります。高さは2.2m以下か。厚さは10cm以上か(塀の高さが2m超2.2m以下の場合は15cm以上)。長さ3.4m以下ごとに高さの1/5以上突出した控え壁があるか(塀の高さが1.2m超の場合)。寸法には数値があり、傾きにだけ無い。これがこの1枚の書き方です。
法令には、傾きの条項が一つもありません
施行令第62条の8はこう始まります。
(塀)第六十二条の八 補強コンクリートブロック造の塀は、次の各号(高さ一・二メートル以下の塀にあつては、第五号及び第七号を除く。)に定めるところによらなければならない。ただし、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。
続く七つの号は、高さ、厚さ、鉄筋、控壁の突出、定着、基礎の丈と根入れ。すべて作り方の仕様です。構造計算で安全を確かめた場合は各号によらない道もあります。れんが造・石造・鉄筋の入っていない塀は点検資料でも別の欄で、施行令第61条が別の数値を定めます。どちらにも、傾きの条項はありません。
診断で使う5度は、倒れる角度ではありません
塀を対象にした角度で確認できるのは一つだけです。国土交通省が公開する「既存ブロック塀等の耐震診断基準・耐震改修設計指針について」の概要資料が示す調査シート例に、健全性が確保できていないことを判定するための基準として「5度以上の傾斜」が挙がっています。倒れるまでの余裕でも、倒壊の予測でもありません。
(一財)日本建築防災協会が作成し、国土交通大臣が耐震診断方法として認定した基準です。本体は有償の刊行物で、引いているのは国土交通省掲載の概要資料です。
傾きはどうやって測るのですか?
公的に示された方法は「目視等又は下げ振り等により確認する」だけです。平成20年国土交通省告示第282号 別表第一の(七)にある調査方法で、判定基準は「著しいひび割れ、破損又は傾斜が生じていること。」。ここでも数値はありません。義務としてかかるのは建築基準法第12条第1項の定期調査の対象建築物で、一般の戸建て住宅の塀に報告義務は生じません。
測る位置や区間を定めた公的文書は、塀については見つかりませんでした。住宅側にある「三メートル程度離れている」二点や「二メートル程度以上の長さ」の線は、既存住宅状況調査方法基準が床と柱に置いた定義で、塀の測り方ではありません。塀の側にあるのは、調査シート例が結果を「度」で書く様式だけです。
「3/1000」「6/1000」は塀の基準ですか?
塀の基準ではありません。この二つは平成12年建設省告示第1653号の数値で、住宅紛争処理の技術的基準です。危険と安全の線でもなく、「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性」の高低を分ける目安です。適用範囲もこう限られています。
1 新築時に建設住宅性能評価書が交付された住宅で、指定住宅紛争処理機関に対してあっせん、調停又は仲裁の申請が行われた紛争に係るものにおいて発見された事象であること。
住宅の品質確保の促進等に関する法律第2条第1項の「住宅」は「人の居住の用に供する家屋又は家屋の部分」で、塀は家屋でも家屋の部分でもありません。6/1000がもう一つ出る既存住宅状況調査方法基準も、対象は「対象住宅」、部位の列挙に塀はありません。
「1/1000」という区分は、そもそもありません
許容値として1/1000という数字も見かけます。告示第1653号の区分は3/1000未満、3/1000以上6/1000未満、6/1000以上の三段階だけで、1/1000という区分はありません。住宅の基準としても存在しない数字です。
資料 | 対象 | 傾きの扱い |
|---|---|---|
施行令第62条の8・第61条 | 塀 | 傾きの条項なし |
点検のチェックポイント | 塀 | 「塀に傾き、ひび割れはないか。」 |
告示第282号 別表第一 | 定期調査の対象建築物 | 著しい傾斜かどうか |
耐震診断基準の調査シート例 | 塀 | 「5度以上の傾斜」 |
告示第1653号 | 住宅(柱・床など) | 3/1000・6/1000 |
既存住宅状況調査方法基準 | 対象住宅(床・柱など) | 6/1000 |
塀はなぜ傾くのですか?
国の研究機関が転倒と傾斜の主要因に挙げたのは、基礎なし・控え壁なし・定着なしの三つです。建築研究所が2018年大阪府北部の地震の被害を調べた報告は、転倒した4箇所すべてで仕様規定との違いを認め、転倒は7段以上、傾斜は6段から8段の塀だったとしています。石積み(擁壁)の上は基礎を設けにくく縦筋の定着も不十分になりやすく、転倒被害が多いとも書かれています。
塀そのものより、下や外に原因があることが少なくありません。自治体の調査シートも、笠木の欠落による雨水侵入と鉄筋の腐食、擁壁の不同沈下やはらみ、地盤の変状を並べます。

傾いた塀は、起こして直せますか?
起こして垂直に戻す工法について、公的な資料は見つかりませんでした。できるともできないとも書かれていません。分かっているのは、公的な診断の道筋にその選択肢が無いことのほうです。
耐震診断のフローは、健全性評価、仕様規定への適合性評価、一体性および転倒の評価と進み、満たさなければ「撤去または耐震改修」へ向かいます。自治体の様式が改善計画に並べるのも、撤去、高さを減らす、控え壁の設置、補修、補強。健全性の項目に一つでも該当すると「撤去・改修」の判定になり、撤去するなら以後の調査検討は省略してよいとされています。
傾いているとわかったら、まず何をしますか?
付近を通る人への速やかな注意表示等と、補修・撤去等です。国土交通省の技術的助言は、点検で危険性が確認された場合に「付近通行者への速やかな注意表示等及び補修、撤去等が必要である旨」注意喚起するよう求めています。
ブロック塀の点検は二段階です。外観目視で「老朽化し亀裂が生じたり、傾き、ぐらつきなどが生じたりしていないか。」を見た先は、建築士、専門工事業者等の専門家の協力を得て診断することが望ましいとされています。設置又は保存に瑕疵があって塀が倒れ、人に損害が生じれば民法第717条が働き、まず占有者が、占有者が必要な注意をしたときは所有者が賠償責任を負います。
よくある質問
傾きが3度なら、まだ大丈夫ですか?
3度という区切りの公的な出どころはありません。確認できるのは健全性の判定に使う5度以上だけで、倒壊を予測する数値ではありません。傾きがあれば程度によらず専門家に相談する、が資料の書き方です。
傾いた塀は、あと何年もちますか?
塀の寿命を年数で示した公的資料はありません。自治体の様式が言うのは、建設後維持管理がない状態で数十年が経過しているものは既存塀の健全度を確保するのが難しい、というところまでです。
撤去や改修に使える制度はありますか?
対象条件が自治体ごとに違い、全国共通の基準はありません。国土交通省「ブロック塀等の安全対策について」に、都道府県別の整備状況や支援制度のある自治体の一覧が集まっています。お住まいの自治体の建築部局へ。
まとめ
塀の傾きに、角度や勾配を定めた法令はありません。国のチェックポイントは有無の判定で、公的な数値は耐震診断基準の調査シート例の「5度以上の傾斜」だけ。それも健全性が確保できていないことを判定するための基準です。
M Art Wall は軽い意匠の塀の製造・販売元で、点検や改修は請け負っていません。作り替える段になったら、設置できるか、どんな意匠にできるかを、まずご相談ください(ご相談は無料です)。

