住宅地や学校のまわりで見かける、細い柱の間に板がはまった塀。あれが万年塀です。名前は知られていても、建築基準法にも施行令にも「万年塀」という語は一度も出てきません。高さの上限も寿命も、公的な数値がほとんどありません。分かっていることと分かっていないことを分けて書きます。
この記事の要点
・立川市は万年塀を「支柱の間にコンクリートの平板を落とし込んで造られた塀」と定義します
・法と施行令の全文に「万年」は0件。国立市は「基準が規定されていない万年塀」と書きます
・よく見る「寿命30年」は減価償却の法定耐用年数で、物理的な寿命の公的資料は無い
万年塀とは何ですか?
鉄筋コンクリート製の支柱の間に、コンクリートの平板を落とし込んで造られた塀です。立川市が撤去助成の資料「塀の種類」で示す定義で、行政の文書で確かめられる数少ない説明です。
☆万年塀とは 鉄筋コンクリート製の支柱の間に、コンクリートの平板を落とし込んで造られた塀です
さいたま市は助成の手引きで「万年塀等の組立式コンクリート塀」と書きます。積むのではなく組み立てる塀だ、という捉え方です。
工業規格には JIS A 5409:1993「鉄筋コンクリート組立塀構成材」があり、日本規格協会の書誌では状態が「有効」、2008年に追補1が出ています。ただしこの書誌のどこにも「万年塀」の語はありません。通称と規格名を結ぶ公的な根拠が無いので、規格の存在までにとどめます。
ブロック塀とどこが違いますか?
造り方が違い、そのために法律の扱いも違います。ブロック塀は積み上げる塀、万年塀は落とし込む塀です。立川市の1枚が三つを並べています。
塀の種類 | 造り方 | 施行令の仕様規定 |
|---|---|---|
コンクリートブロック塀 | ブロックを鉄筋で補強しモルタルを充填しながら積み上げる | 第62条の8 |
組積造の塀 | 大谷石や煉瓦等の石材を積み上げる | 第61条 |
万年塀 | 鉄筋コンクリート製の支柱の間に平板を落とし込む | 名指しした規定なし |
第61条は組積造のへい、第62条の8は補強コンクリートブロック造の塀の規定で、万年塀を名指しした仕様規定は見当たりません。違いはこの一行に出ます。

建築基準法では万年塀はどう扱われますか?
建物に附属する塀は建築物なので法の対象です。ただし万年塀を名指しした条文はありません。建築基準法第2条第1号は、建築物の定義に「これに附属する門若しくは塀」を含めます。
では「万年塀」という語はどこに出てくるか。法と施行令の全文を検索したところ0件でした。国立市は公園の塀の公表資料で三度こう書いています。
建築基準法では基準が規定されていない万年塀
基準が無いと言える根拠は、条文が黙っていることではなく、行政がそう明言していることです。
工作物の指定にも塀は入っていません
施行令第138条第1項が指定する工作物は煙突、広告塔、高架水槽、高さ2mを超える擁壁などで、塀は入っていません。
万年塀に高さや控え壁の決まりはありますか?
ありません。上の国立市の資料が、まさにその言い方をしています。よく見かける「万年塀は2.2mまで」「3.4mごとに控え壁が要る」は、施行令第62条の8が補強コンクリートブロック造の塀に定めた数字です。
第六十二条の八 補強コンクリートブロック造の塀は、次の各号(高さ一・二メートル以下の塀にあつては、第五号及び第七号を除く。)に定めるところによらなければならない。ただし、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。/一 高さは、二・二メートル以下とすること。/五 長さ三・四メートル以下ごとに…控壁で…高さの五分の一以上突出したものを設けること。
主語は「補強コンクリートブロック造の塀」で、万年塀ではありません。括弧書きのとおり高さ1.2m以下の塀に第五号の控壁と第七号の基礎はかかりませんし、ただし書きの構造計算で安全を確かめる道も開いています。鉄筋コンクリート造のへいについては、施行令第71条第2項が高さ3m以下のへいに適用される条を第72条、第75条及び第79条に限ります。条文だけではありません。国の点検表や診断基準でも枠の外です。
公的な枠組み | 対象として書かれている塀 | 万年塀の扱い |
|---|---|---|
国の点検チェックポイント | ブロック塀/組積造の塀 | 点検表が無い |
既存ブロック塀等の耐震診断基準 | 補強コンクリートブロック造の塀・組積造の塀 | 調査シート例の「その他」 |
さいたま市の除却助成 | ブロック塀等 | 組立式コンクリート塀として対象 |
万年塀はどのくらい保ちますか?
物理的な寿命を示した公的な資料は、一つも見つかりませんでした。広く言われる「30年」は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一の法定耐用年数です。税の計算のための年数であって、何年で壊れるかを示す数字ではありません。鉄筋コンクリート造のへいが30年、コンクリート造又はコンクリートブロック造のへいが15年です。
では代わりに何を見るか。手がかりは、施行令第79条第2項が鉄筋のかぶり厚さに添えた文言です。
水、空気、酸又は塩による鉄筋の腐食を防止し、かつ、鉄筋とコンクリートとを有効に付着させることにより
かぶり厚さは中の鉄筋を水と空気から遠ざける寸法だ、と法令が書いています。劣化の中身は鉄筋の腐食で、それが外に出たものがひび割れや錆汁です。立川市の点検資料は、万年塀の行に「傾きはあるか?(5度程度)」「ひび割れはあるか?(1mm程度)」を挙げています。これは同市の資料が示す目安で、法令の基準でも全国共通の数値でもありません。さいたま市も組立式コンクリート塀を傾き・ひび割れとぐらつきで見ています。
傷んだ万年塀はどうすればよいですか?
まず人を近づけない、それから直すか外すかを決めます。順序は国が示しています。国住指第1130号(平成30年6月21日)は、安全点検で危険性が確認された場合には「付近通行者への速やかな注意表示等及び補修、撤去等が必要」だとしました。国立市も、劣化が確認できた公園の万年塀に立入禁止と注意表示を行いました。
基準が無いことは、放っておいてよいという意味ではありません。建築基準法第8条は所有者・管理者・占有者に「常時適法な状態に維持するように努めなければならない」と定めます。民法第717条第1項は、工作物の「設置又は保存に瑕疵があることによって」他人に損害が生じたときに、占有者に、占有者が必要な注意をしていたときは所有者に賠償責任を負わせます。仕様の基準が無いことと、設置や保存に瑕疵が無いことは別です。
支援制度は自治体ごとに探します
国土交通省「ブロック塀等の安全対策について」のページから、支援制度のある自治体の一覧にたどれます。制度の有無も対象範囲も自治体ごとに違います。さいたま市のように万年塀を対象と明記する例があるので、まず自治体の要綱で、塀の種類と道路等に面しているかを確かめてください。
よくある質問
万年塀の板の厚さや支柱の間隔は決まっていますか?
公的に確認できる数値はありません。JIS A 5409:1993 の本体は有償で、書誌情報までしか確認していないためです。手元の塀は、さいたま市の手引きどおり製作メーカー等の仕様書で確かめてください。
万年塀は建築基準法違反ですか?
違反と断定できる根拠はありません。名指しした仕様規定が無いだけで、禁じる条文もありません。ただし維持保全の努力義務と工作物責任は、基準の有無と関係なくかかります。
JIS A 5409は廃止されましたか?
廃止されていません。書誌上の状態は「有効」で、2008年に追補1が出ています。ただし、この規格が万年塀そのものを指すと書いた公的資料は見つかりませんでした。
まとめ
万年塀は、鉄筋コンクリートの支柱に平板を落とし込んだ塀です。法にも施行令にもその名は無く、国立市が書くとおり基準が規定されていません。寿命の30年は税務上の年数で、物理的な寿命の公的な数値は存在しません。年数ではなく、傾きとひび割れという目に見えるサインで判断するしかありません。
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