2026年9月の台風第25号では、関東甲信地方で21日の24時間降水量が観測史上1位や9月の1位を更新し、千葉県などで土砂災害が報告されました(国土交通省「令和8年台風第25号による被害状況等について(第8報)」)。
大雨のあとに擁壁と塀のどこを見るかを、国と自治体の点検資料と、宅地造成及び特定盛土等規制法(以下「盛土規制法」)などの条文から整理します。
この記事の要点
・国土交通省の「わが家の宅地点検②~擁壁編~」は、不適切な工法・変状・排水機能の3つを点検のポイントにしています
・水抜き穴(条文では「水抜穴」)は擁壁の裏面の排水を良くするためのもので、盛土規制法施行令第12条と建築基準法施行令第142条が、それぞれの対象の擁壁について定めています
・国の「我が家の擁壁チェックシート(案)」は、水のしみ出しや排水施設の不具合を、擁壁の危険度を上げる点として数えています
大雨のあと、擁壁のどこを見ればいいですか?
ひび割れ・ずれ・ふくらみ・傾きなどの変状と、排水の具合です。国土交通省の「わが家の宅地点検②~擁壁編~」(平成21年3月)は、点検のポイントを次の3つにしています。
Point 1 不適切な工法や設置の状況になっていませんか?
Point 2 ひび割れ、ずれ、ふくらみ、傾きなどの変状はありませんか?
Point 3 排水機能は低下していませんか?
横浜市の「擁壁のはなし」は「大雨時には地盤が水分を多く含むことで、がけ崩れが起こりやすくなり、擁壁も土圧が増すため崩壊の危険が高まります」としています。
国土交通省の「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」は、宅地造成等規制法等(原文のまま)の技術的基準に適合しない空石積み擁壁、増積み擁壁、二段擁壁、張出し床版付擁壁などの不適格擁壁について、地震や大雨直後に変状の進行や新たな変状の有無を確認することが望ましいとしています。
水抜き穴は、何のためにあるのですか?
擁壁の裏面の排水を良くするためです。盛土規制法施行令第12条です。
第八条第一項第一号の規定により設置される擁壁には、その裏面の排水を良くするため、壁面の面積三平方メートル以内ごとに少なくとも一個の内径が七・五センチメートル以上の陶管その他これに類する耐水性の材料を用いた水抜穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜穴の周辺その他必要な場所には、砂利その他の資材を用いて透水層を設けなければならない。
同令第8条第1項第1号は、宅地造成等工事規制区域内の宅地造成に関する工事(一部を除く)で、一定の崖面に擁壁の設置を求める号です(盛土規制法第13条第1項の技術的基準)。国土交通大臣が第12条などの規定による擁壁と同等以上の効力があると認める特殊の材料又は構法の擁壁には、第12条は適用されません(同令第17条)。
建築基準法施行令第142条も、同令第138条第1項第5号に掲げる擁壁(高さが2mを超えるもの。国土交通大臣が指定するものを除く)の技術的基準の一つに「擁壁の裏面の排水を良くするため、水抜穴を設け」ることを挙げています(国土交通大臣が定めた同等以上の構造方法による場合を除く)。

水抜き穴は、ふさいでもいいですか?
国と自治体の資料は、水抜き穴を擁壁の安全に関わるものとし、詰まりを点検の対象にしています。「わが家の宅地点検②」は「排水機能が低下すると、擁壁に無理な負担がかかります」とし、「擁壁に水抜き穴が設けられているか、詰まりがないか確認しましょう」と書いています。
横浜市は、旧宅地造成等規制法に関するよくある質問で、隣地の擁壁の穴から水が出てくるという問いにこう答えています。
雨水が地中に浸透した場合に擁壁に余計な力がかかるのを防止するために設ける「水抜穴」と呼ばれるもので、擁壁の安全上非常に重要な役割をしているもの(宅地造成に関する技術的基準)ですので、ご了承ください。
擁壁から水がしみ出していたら、どう見ますか?
国のチェックシート(案)は、しみ出しを擁壁の危険度を上げる点として数えます。①水抜き穴、②水のしみ出し、③排水施設のうち最大の点が擁壁基礎点Aで、これに変状の点Bを足した総評点が高いほど危険性が高いとされます。
項目 | 選択肢(抜粋) | 点 |
|---|---|---|
①水抜き穴 | 水抜き穴はあるが、擁壁上の地盤に雨水が浸透しやすい状況にある | 1.0 |
②水のしみ出し | 水がしみ出し・流出している | 1.0 |
③排水施設 | 擁壁のクラック又は目地から水がしみ出し、付近にはへこみも見られる(排水溝のずれ等に加えて) | 1.0 |
③排水施設 | 上記に加え、水抜き穴の詰まり、破損があり、排水機能が失われている | 1.5 |
健全度判定・予防保全対策マニュアルも、「湧水(湿潤・しみ出し・流出等も含む)の量と変状量は相関性が高い」「排水施設、水抜き穴の不具合による地下水位の上昇は擁壁の劣化に大きな影響を及ぼす」としています。シートは擁壁の危険度を概略的に知りたい住民向けで、安全と判定されても日常の点検を続け、安全度が低ければ詳細な調査をすることが適当とされています。
採点するのは高さ1mを超える練石積み・コンクリートブロック積み、重力式コンクリート、鉄筋コンクリートの擁壁です。空石積み・増積み・2段・張出し床板付の擁壁は「本来、宅地の擁壁として適さない」として、専門家への相談を勧めています。
擁壁の上の塀は、何を見ればいいですか?
ブロック塀なら傾きやひび割れを見ます。裏の盛土の有無で、健全度判定・予防保全対策マニュアルの扱いが変わります。国土交通省の「ブロック塀の点検のチェックポイント」は、外観で見る項目の一つに「塀に傾き、ひび割れはないか。」を挙げています(大雨に限った資料ではありません)。
健全度判定・予防保全対策マニュアルは、擁壁天端のブロック塀などの劣化状況を、宅地地盤に直接影響を与えないと考えるものとして考慮しません。そのうえで「ブロック塀背面に盛土されている場合は、増積み擁壁として検討する」と注記し、背面に盛土されていないブロック塀の荷重が擁壁の安定性に与える影響は別途検討することが望ましいとしています。増積み擁壁は、同マニュアルが大雨直後の確認を望ましいとする不適格擁壁の一つで、チェックシート(案)は専門家への相談を勧めています。
異常を見つけたら、どうすればいいですか?
台風やゲリラ豪雨の際に異常が見られたら近づかず、変状などは専門家に相談します。横浜市の「擁壁のはなし」は、台風やゲリラ豪雨の際に、水抜き穴がない・排水設備の不良、全体にひび割れ、ふくらみ・ずれなどの現象が見られる場合の対応策として、「危険な擁壁やがけに絶対に近づかない」ことや安全な場所への避難などを挙げています。
「わが家の宅地点検②」も、不適切な工法や変状があれば専門家に相談するよう勧め、対策工事には事前に自治体の許可や確認が必要となる場合があるとしています。
よくある質問
隣の擁壁の水抜き穴から水が出てきます。ふさいでもらえますか?
横浜市は旧宅地造成等規制法に関するよくある質問で、隣地の擁壁の穴から水が出るという問いに、水抜穴は擁壁の安全上非常に重要な役割をしているものとして了承を求めています。
雨のあと、水抜き穴から水が出ていません。問題ですか?
堺市は水抜き穴からうまく水が流れ出ているかを点検項目に挙げ、国土交通省の「わが家の宅地点検②」は詰まりがないか確認するよう勧めています。
水抜き穴が見当たらない擁壁は、どう扱われますか?
国のチェックシート(案)は、水抜き穴が設置されていない(または3㎡に1ヶ所以上・内径75mm以上を満たしていない)状況を、水抜き穴の項目で2.0点としています。採点の対象は高さ1mを超える練石積み・コンクリートブロック積み、重力式コンクリート、鉄筋コンクリートの擁壁で、空積みは対象外です。
高さ1m以下の擁壁も、チェックシートで見られますか?
国のチェックシート(案)は、擁壁の高さが1m以下の宅地を「ほぼ安全なものが多いので、チェックの対象外としました」とし、「問題のある場合は別途専門家に相談して下さい」としています。
まとめ
- 大雨のあとは、変状と、排水溝や水抜き穴の詰まりを見る
- 水抜き穴は擁壁の裏面の排水を良くするためのもの
- 擁壁の上のブロック塀は傾き・ひび割れを見る
擁壁の上の塀を建て替えるなら、M Art Wall も選択肢の一つです。当社は製造・販売元で、工事は各地の取扱店が行います。擁壁は当社の製品ではなく、点検も工事も行いません。

